父親が大嫌いだったのにそのおかげと思えた日の話

父親が大嫌いだったのにそのおかげと思えた日の話

父親が子供のころからずっと大嫌いだった
自分が絶対的な存在で真面目で頑固で融通が利かない
典型的な内弁慶で家族以外には愛想がよいが家族に対して命令しかしない父親だった
気に入らないことがあれば怒鳴り散らす
自分が結構いい大学を出ているせいか特別な存在とでも思っているのだろう
子供にも勉強ばかりを強要した



成績が下がると叩かれた、上がり続けるなんてあり得ないのに
テレビも見せてもらった記憶がない

それでも子どもというのは親に認めてもらいたいもの
自分のためではなくずっと父親のために勉強していた

ちょっとでも反抗しようものなら
『誰のおかげで生活できてると思ってるんだ!』
『親に反抗するな』
『そんな生意気な子に育てた覚えはない』・・・
同時に手も出て誰かが止めに入るまで歯止めがきかない

怖すぎて反抗すらできなかった・・・
高校卒業するまでひたすら耐えていた
壊れなかったのは母がいたから
母のことは好きだったから
母はいつもかばってくれた、しかし母もまた父には逆らえなかった

大学は理系が好きだったので理学部に行きたかった
しかし、『女が理学部にいってどうなる?男と張り合えるとでも思っているのか
行かず後家になるだけじゃないか
いつまで親に面倒見てもらう気でいるんだ』

すべてをあきらめた
どんどん無気力になっていった
何もしなくなった
自信も全くない、自分のことも大嫌い、何もかも父親のせいだと思っていた
結局親が勧める短大に行った

ありがたいことにそこは自宅から離れていた
初めて知った自由な世界だった
しかし卒業したら連れ戻される
私は2度と家に帰りたくない
結婚したい、新しい家族を持ちたいと切に願った

そんなころ、父とは正反対の楽しくて面白くて
冗談ばかり言って笑わせてくれる人と出会ってつきあい始めた
卒業したら結婚したいと思ってはいたがお互いにまだそこまでは
踏み込めなかった

しかし彼の実家に遊びに行ったことをきっかけに話がどんどん進み
卒業後結婚し1年後子どもが生まれた
私は父と真逆な子育てをしようと決意した
夫はとても子煩悩で子どもに優しかった、もちろん私にも優しい人だった
子育てに関しては、いや家のことに関しては何も言わない人だった
すべてを私に任せてくれた
子供の頃欲しくてたまらなかったアットホームな家庭が手に入った

結婚して後私は一度も実家に帰らずに休みのたびに夫の実家に帰った
夫の両親が好きだった
母には申し訳なかったが父のいる家に帰る気にはなれなかった
出産のたびに、また手伝ってほしいときには母に連絡し母がこっちに来てくれた

しばらくはその状態が続いていたが母に何度も子供の顔を見せに帰ってきてほしい
といわれ10年後くらいに初めて帰った
父とは一言も口を利かなかったが父は私の子どもたちにはそれなりに
優しくしてくれていた
その後も3年に1度くらいずつ実家には帰るようになったが相変わらず
私は父と口を利かなった

それから瞬く間に歳月は流れ、上の子たちは独立し家に残っていたのは末っ子だけ
そしてその末っ子も高校を卒業し、私たち親元から離れる日が近づいたある日のこと

夫がしみじみと言った
『みんな立派な大人になったね、オレ子育て何もしていないのに
全部あなたのおかげだね』

えっ、わたしのおかげ?私はただ父親が大嫌いだったから父親に自分がされて
嫌だったことは子どもにしなかっただけ、してほしかったことを子どもにしてきただけ
それで子どもたちが皆こんなに素晴らしく育った、ということは全部父親のおかげ?

急に父親に対する感謝の気持ちがこみあげてきて伝えたくなった
それでも電話をする勇気がなくて手紙を書いた
今までのこと、子供の頃からずっと嫌って心を全く開かずにここまで
来てしまったことを詫びた。今はただ感謝でいっぱいで長生きしてほしいこと…

書いているうちに感謝することがたくさん出てきた
何不自由なく育てられたこと、学費も全部結婚式も挙げさせてくれたこと
何より私をこの世に生み出してくれたこと
優しくされたことなどただの一度もないと思っていたのに旅行に連れて行ってくれたり
魚釣りに連れて行ったりしてくれていたことも思い出した
ただ私が封印していただけだったんだ

届いた日、母から電話があった。
2人して泣きながら手紙を読んだ、お父さんは気恥ずかしくて電話に出られない
でもとても喜んでいた、私もとてもうれしかったと言われた。

それからは度々実家に帰るようになった
私一人でも何度も帰った
昔のわだかまりはなくなった
父は今では私のことを一番頼りにしてくれている

時間は随分かかってしまったけれどようやくわかった、全てつながっていたことが
両親が健在なうちにわかってよかったと今心から思う
残された時間は短いけれど今後はできる限り親孝行をしていきたいと思っている



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